お知らせ

栄養士が語る「おいしい」の育て方・第2回 食べられないことは悪ではない

こどもたちの体を作る根源である「食べ物」。
日々、たくさんのこどもたちの「おいしい!」の声を生み出す
食のプロはなにを考え、どんな思いで給食をつくっているのか……。

こども施設の給食に関わる発注業務の省力化と食育の推進を目指し、
連携することになったオイシックス・ラ・大地さんとコドモン。
こども施設の<給食室>で働いていたという共通点がある両社の栄養士ふたりに
話を聞いてみました。

オイシックス・ラ・大地株式会社の加月香奈美さん(以下、敬称略)と
コドモンの給食管理機能担当の森山綺佳。

「食」を通してこどもたちに伝えたい給食室の思いとは……?


 

最低限の栄養が摂れていたら大丈夫って言うけれど、最低限ってどのくらい?

  
――食への興味関心や食べる量に個人差があること、食べることを強要するのはいけない……。
わかっていても、あまりにも食べる量が少ないと、やはり栄養が足りているのかどうか心配になってしまう保育士さん、保護者さんはいらっしゃると思います。

加月
私の感覚では栄養士より保育士さんのほうがより心配される傾向にある気がします。

森山
保護者さんもそうですよね。栄養について細かいことがわからないから。

加月
そうですね。目安がない、わからないというのは不安になりますよね。
私は、体重が減っているとか、成長曲線を大きく下回るとかいうわけではなければ、「いつか食べる時期が来る」とおおらかに構えてもいいのではないかと思っています。
体重が減って、お腹も空いているにもかかわらず食べないとなると……それは病院にご相談いただくのがよいかと。

森山
それで、そういう子が「ひとくちだけ食べてみよう」の声かけで食べられたら「えらいね!」と褒める……でいいと思います。

加月
ちなみに私がこうした考え方をするようになったきっかけは、ラジオで著名な管理栄養士のひとが「三食のうち一食くらい食べなくても大丈夫。それはそのときお腹がすいていないだけだ」と話されているのを聞いたことです。
「お腹がすいたら絶対に食べるから大丈夫。なんなら丸一日食べなくても水分さえ摂っていれば成長に影響はない」って。それがすごく印象的で……。

森山
私は……そもそも定量を必ず食べきらないといけないという考え自体がありません。
いろいろ食べてほしいからおいしく食べられるように手は尽くしますし、「おいしい、楽しい」は感じてほしいですが、食べられる量はそれぞれですから。
それに、私自身もこどものころから「食べないといけない」とか「絶対に食べましょう」とは言われたことがないんですよ。食べられるだけ食べましょうという感じ。おかわりできるならしたらいいし、食べられないなら残してもいいよという雰囲気。
だから「食べることを強制する」が感覚としてあまりよくわからないというのもあります。

加月
私はこどものころ、いわゆる「定量」が食べられない子でした。
食べなさいと強要されることはありませんでしたが、小学校の給食ではなんとなく「残したらいけない雰囲気」は感じていましたね。
なので、食べるとか給食の時間があまり好きではありませんでした。
もしかしたら、「嫌い」になってしまう子もいるかもしれません。
栄養士になって、給食室に入るころには「残さず食べたら褒められる」という感じに給食のスタンスも変わっていて、「残したらダメ」な雰囲気はなくなっていました。
先生たちの声かけも「ひとくちだけ食べてみよう」。
食わず嫌いはダメだけど、食べてみて苦手ならそれ以上は食べさせない。ちょっとだけでもがんばれたらえらいね!という。
教育、食育という意味ではこちらの声かけのほうがこどもにとってよい影響があると思います。
「食べさせなきゃ」と思うのは、保護者や保育者にとっても辛いですし、こどもにとっても辛い。
食事の時間が楽しくなくなってしまう。
よほど体に悪影響が出ていなければ、食事の時間を楽しむことを優先してあげる…という考え方です。

森山
このあたりのとらえ方には世代で差があるのかもしれませんね。
アレルギーの子が増えてきたというのもその背景にあるのではないでしょうか。
アレルギーの子が食べられないのに、アレルギーじゃない子には無理強いするのはどうかな?という風潮が出てきたというのはあると思います。
アレルギーではないけれど、牛乳を飲むとお腹を壊しちゃう子もいますしね。給食側も気をつけなきゃいけないと意識が変わっていったというか。

加月
体質は人それぞれですよね。
牛乳を飲むとお腹を壊す子はけっこう多いと感じています。
ただ保育園で除去食対応をするとなると、医師の指示書が必要だったりと施設や自治体によってそれぞれの取り決めがあります。
医師からの指示書があれば代替で豆乳を出すことが可能だったとしても、医師の判断がつかない・アレルギーじゃないときの対応はできることに限界があるので……難しいですよね。
保護者からのご要望があれば、水やお茶で対応している園もあると聞いたことはあります。
グレーな判断ではありますが、こうした柔軟な対応は保護者側からすると喜ばれるようです。

食べられないものがあるなら、食べられるものから栄養をとればいい

  
森山
「食べられないものがある」子がいるクラスでは保育士さんが子どもたちに説明していました。
嫌いだから食べないんじゃないよっていうことは、こどもたちもちゃんと理解していたように思います。

加月
3、4、5歳児だと、食事中にも子ども同士のかかわりが出てくるので説明は必須ですね。
卵入りのおかずを食べた手で卵アレルギーの子にさわっちゃったりすると、アレルギーが重い場合はたいへんなことになりますから。
食べ物ついた手でお友達にさわらない。お友達のお皿にはさわらない。
あとはアレルギーのこども自身も自分のことがわかってくる年齢なので、自分の食べ物はお友達とは違う、だからほかの子のを食べたりしてはいけないと説明してあげたほうがいいと思います。

森山
私は専門学校で栄養指導をしていた時期もあるのですが、「食べられる食材のなかでどう栄養をとるのか」を考えようと話していました。
食べられるもののなかで栄養が補完できたらそれでOK。食べられないことは悪ではない。
さすがに、食べたことがないのに先入観で食べられないという場合は「一度食べてみたら?」とは思いますが……。

加月
栄養を補完するという観点からお話しすると、先ほどの「牛乳が飲めない」というのは、カルシウムが大幅に不足するので給食内で補うのは厳しいですね。
とはいえ、保護者の意向もあるので、そこはご家庭の食卓でカルシウムを多く摂れるようにに気を配っていただきたいと思います。
このあたり、本当は給食室と保護者でもっと連携とりあえたらいいのになあ……。
あと、余談にはなりますが、アレルギーとかお腹を下すなど体の反応はないのですが、本やテレビの影響から「牛乳は飲ませない」と決めている保護者さんもいたりします。
これもやはり、ご家庭の考え方にこちらがなにか指導をしたりはできないので、そういうお考えであれば、栄養が不足しないよう別の食べ物で補うようにしてくださいね、とお伝えしていました。

(第3回へつづく)

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※全4回の連載終了後、アンケート結果をもとにした記事を公開予定です。


<プロフィール>
加月香奈美さん
オイシックス・ラ・大地株式会社 店舗外販事業部施設食材流通セクション
栄養士として保育園に5年半勤務。

森山綺佳
コドモン カスタマーサクセス 活用支援チーム 
管理栄養士として、保育園や病院、老人ホームの給食業務に従事。


第3回「園での食事を通して、たくさんの「おいしい」を知ってほしい」は2月17日配信予定です。
絵本の読み聞かせやおままごとも食育。よい食育を行うには施設内での連携が大切!

<バックナンバー>
第1回「食育のゴールはどこにあるの?」