子どもたちの「やってみたい!」という気持ちを見落とさず、大切にしたい【浅野高史先生】

すてきな園長先生

今回お話を聞いた方

浅野高史(園長)
出身地:東京都世田谷区
職歴:学童保育(2年)、保育園(19年)
園長先生歴:7年目
愛読書:雑誌『サーフィンライフ』、『ちいさいなかま』
趣味:サーフィン、スノーボード、キャンプ
日課:観葉植物の水やり、ストレッチ

高校時代に公立園でしたアルバイトが、保育士になったきっかけ

保育の仕事に就いたきっかけを教えてください。

高校時代の私は友人との遊びに夢中で、よく勉強そっちのけで遊んでいました。そうしたら、公立保育園の園長をしていた友人のお母さんに「そんなに遊んでばかりいるなら、子どもたちと遊びなさい」と園でのアルバイトに誘われたんです。

実際にアルバイトをしてみてどうでしたか?

夏休みの間のたった1週間のアルバイトでしたが、「おにいさんが来た〜!」って子どもたちが喜んでくれて、大人気に(笑)。子どもたちと一緒に相撲をとったり、サッカーをしたりしたのですが、とても楽しかったです。高校生ながらに「保育ってすごくおもしろい世界だな」と感じました。それで高校卒業後は、保育園や児童館でアルバイトを始めたんです。

保育園だけでなく児童館でもアルバイトをされたんですね。

はい。児童館に学童保育が併設されていたので、乳幼児と保護者、小学生から高校生までの幅広い子どもたちとふれ合いました。午前中は子育てサークルを担当し、午後は学校から帰ってくる子どもたちを迎えて遊んだり、勉強をみたり。特に児童館を訪れる中高生のなかには学校でトラブルがあってつらい気持ちを抱えている子もいて、そういう子の力になりたいと思ったんです。この2年間が、私を成長させてくれたと思っています。

その後、保育の道に進まれますが、それはどうしてだったのでしょう。

学童の仕事も好きでしたが、小さな頃からの体験の積み重ねが中高生へつながっているので、乳幼児期から成長発達を応援したいと思ったことが大きな理由です。

保育士資格はどのように取得されたのでしょうか。

保育園でアルバイトをしていたある日、担当クラスの子がケガをしたことがありました。そのとき、私は慌ててしまって速やかに対応できなかったのです。もちろん、担任の先生や園長がすぐ適切に対処してくれました。そのうえで、私には「大丈夫だよ。あなたの責任ではなく、私たちの責任だから」と言って、いろいろと教えてくださって……。この経験を経て、子どもたちの安全を守れるようにと、資格を取るために保育専門学校に通い始めたんです。

0歳からの畑仕事、子ども新聞の作成など……さまざまな取り組み

保育において大切にされていることはなんですか?

文部科学省の「児童憲章」に倣い、子どもたちの人権を守り、子どもに寄り添う保育を大切にしています。そのためには発達に関する理解が必須です。基本的な発達段階を常におさらいし、さらに個別の発達段階を考慮しています。
また、子どもたちの「やってみたい」という気持ちを見逃さないで大事にすることを心がけています。子どもは新しいことに挑戦し、ときには失敗してトライアンドエラーを繰り返しながら成長していくもの。そういった挑戦ができる環境や土台をつくってあげることが大切だと思っています。

具体的には、どんな環境づくりをされていますか?

例えば、園の裏に畑を借りて、ジャガイモ、ダイコン、サツマイモなど、子どもたちが育ててみたいと選んだ野菜を栽培しています。採れた野菜は、みんなで調理して食べたり、給食に使ったり、家に持ち帰ったり。年長さんが主力ではありますが、うちは0歳から畑に行きます。ミミズをさわったりして楽しそうです(笑)。

園では、給食で使うトウモロコシやタマネギの皮むきなどの作業もします。食材の匂いや感触を知ることが刺激になるし、手指の発達にもつながるんですよ。

それは楽しそうです。 ほかにはどんなことをされているんでしょうか。

子どもたちが担当の先生と一緒に「地域ニュース」というタイトルの新聞をつくっています。内容は、消防署の消防士さん、近所の農家さんや肉屋さんのインタビューなど。子どもたちが実際に質問を考えて、自分たちで聞きにいきます。消防士さんに「消防士さんはどうやっていっぱい食べて、火を消すのですか?」と聞いたり、肉屋さんに「どの肉が好きですか?」と聞いたり。それを先生と相談して紙面にまとめてコピーし、地域の方に配っています。


(2024年度の「地域ニュース」より一部抜粋。農家さんへのインビュー記事)

ユニークな取り組みですね。 いろいろな仕事が見られて、子どもたちは興味津々ではないですか?

そうですね。消防署では消防車を見せてもらい、肉屋さんでは肉をカットしたりする作業場を見せてもらったりして、すごく興味を持っていました。さらに「地域ニュース」づくりは地域の方との交流も深めてくれています。近くの年配の方たちが、子どもたちに「地域ニュース見たよ」「おもしろかったよ」などと声をかけてくださったりして。とても嬉しく思っています。

浅野先生が保育の仕事にやりがいを感じるのは、どういうときですか?

保育士としては、子どもたちの気持ちが動く瞬間を見たときですね。例えば、一緒に山歩きをしていて見つけた昆虫に目を輝かせた瞬間、自分でコップにお茶を注ぐことができるようになって喜んでいる瞬間など。普通の仕事では、なかなか出会えない光景だと思います。

園長としては、先生たちが楽しそうに保育しているところを見たとき、職員会議でのグループワークや園内研修で一致団結したときにもやりがいを感じています。

反対に保育の大変な部分、難しい部分はどこだと思われますか?

人手不足に陥らないようにすることも大変ですが、子どもに直接的に関わることだと空間づくりでしょうか。うちの園では3・4・5歳の異年齢保育をしていて、いろいろな年齢のさまざまな子が視野に入ることで興味関心が広がるよう空間づくりをしています。その一方で、ひとりになりたいとき、クールダウンしたいとき、大人に見られたくないときに安全に隠れられるような「パーソナルスペース」も確保したいのですが、これがなかなか難しいですね。

園長としては、いつも「保護者のみなさんの担任」でありたい

園長になられた経緯を教えてください。

現在の園に入って12年、さまざまなクラスの担任をしてきました。13年目に園長にならないかとの声がかかったんです。最初は現場にいたいという気持ちが強かったので、正直に言うと複雑な気持ちでした。でも、園の方針や保育理念、職員が主体的に取り組める環境が好きで、自分も受け継いでいきたいと思って引き受けることにしました。

園長として大事にされていることはなんですか?

最近は、なかなか保育現場に入る機会が少なくなってきました。それでも、子どもたちにとっては「楽しい園長先生でいること」を大切にしています。月に1回、「お話会」を開催していて、ギターを弾いて歌ったり、絵本を読んだり、子どもたちとの時間をめいっぱい楽しんでいます。

もうひとつは、いつも「保護者のみなさんの担任でいること」。各クラスを担当している職員は「子どもたちの担任」ですから、どうしても子どもの立場から物事を見ることが多いと思います。ですから、私は保護者の方の担任として、保護者のみなさんの立場から物事を見たり、何かあればお話をうかがえたらと思っているんです。

それは保護者のみなさまも心強いと思います。

そうだといいなと思います。最近は、子育てに悩んでいる方が一時保育に来られることも多いので、お話を聞いたり、ご相談を受けたりもしています。

今は情報過多の時代。インターネット上にはいろいろと惑わされるような情報もあって、そうしたものを信じてしまい、悩まされている場合も多いんです。例えば、「子どもがハイハイしないのですが、インターネットで足腰が弱くなるという情報を見たので心配です」というお悩みには、「ハイハイの大切さもありますが、ずりばいから急に立ち上がる子もいますから、その子のリズムを大切にしてあげてくださいね。気になるようであれば、筋力がつくような動作や遊びを一緒に楽しんでみてはどうでしょう」といったふうに発達に関しても正確な情報をお伝えしています。

今後の目標を教えてください。

園としては、地域とのつながりをより豊かにしていきたいと思っています。子育て世代の人はもちろん、高齢者にも「ちょっと保育園で休憩していこうか」と思ってもらえたらいいなと。そういう場所が地域にひとつあってもいいのかなと思います。

個人的には、保護者の方やボランティアの方にご協力いただきながら、もっと海や山での自然遊びの機会を増やしたいと思っています。

最後に、保育士を目指している人へのメッセージをお願いします。

これは特に重要だと思って、お手紙を書いてきました。読み上げますね。

「日々、子どもたちから湧き出てくるエネルギーは、今にも地球を動かしそうなくらい、輝き、愛おしく、力強いものです。『こんなことやってみたい!』と目を輝かせている様子、楽しくてもっと体を動かしたいという気持ち、そんな子どもたちのワクワクが体から飛び出しそうな場面に出会えたとき、私は『子どもっていいな、保育って楽しい!』と思えます。

子どもたちは、私たち保育士に素直に愛情や、やさしさを求めます。ときには悲しさや悔しさでいっぱいになった心を理解してほしい、温かさで満たしてほしいという思いを伝えてくることもあり、そんなときは子どもと一緒に悩むかもしれません。

それでも、日々の子どもたちのありのままを包み込んであげられるのが保育士の仕事です。子どもたちから夢をもらい、夢を伝える。そんな素敵な仕事に出会えたり、目指したりできる私たちは幸せだと思います。これからたくさんのワクワクを、子どもたちと一緒に見つけてくださいね」

(文:大西まお、撮影:中村隆一、編集:コドモン編集部)

浅野先生が働いている園
施設名:たんぽぽ共同保育園
形態:認可保育園(60名)
設立:2005年
所在地:神奈川県鎌倉市手広2-18-27

※2025年2月21日時点の情報です

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