マニュアル通りにいかないからこそ、想像を超える喜びにふれられる【小澤美鈴先生】

すてきな園長先生

今回お話を聞いた方

小澤美鈴(園長)
出身地:埼玉県和光市
保育園勤務歴:20年
園長先生歴:11年目
趣味:読書、犬と散歩

祖父の看取りから始まった、人を支える仕事への思い

小澤先生は、保育園で働き始める前は看護師をされていたそうですね。

はい。子どもの頃、我が家には自宅療養をしている祖父がいました。闘病の末、祖父は自宅で亡くなってしまって……。当時中学生だった私は何もできず、祖父の死後しばらくはただただ落ち込む日々を過ごしていました。

そんなとき、担任の先生から「あなたの笑顔には、いろんな人を元気にする力がある。だから、笑っていなさい」と言われたんです。その言葉をきっかけに「笑顔で誰かを助けられる人になりたい」と思うようになり、当時「一番その思いが実現できそう」と考えた看護師を目指すようになりました。

看護師としては、どのような経験を積まれたのでしょうか。

高度救命救急センターのある大学病院で、重症患者さんの看護にあたっていました。救命センターから一般病棟に移ってこられる方々を多く担当し、重度の熱傷の患者さんや大きな事故に遭われた方の療養を支える日々を送っていましたね。

患者さんが回復していく姿を見守り、ときには厳しい現実を受け入れていく過程に寄り添う看護師の仕事は、すごくやりがいがありました。出産し、育児休暇をいただいたあとも復帰するつもりでいたのですが、当時の看護師の働き方は限られていて、子どもがいても夜勤や不規則な勤務は当たり前の時代でした。これからも、看護師の経験を活かしたい。でも、小さな子どもを抱えて、この働き方を続けられるのか不安に感じていました。

保育の世界に進もうと思ったきっかけを教えていただけますか。

出産後に、子どもの保育園を探していくつかの園を見学しました。現在勤める園を訪れたときに、当時の園長から「もし仕事をお探しでしたら、看護師としてうちの園で働きませんか?」と思いがけない言葉をかけてもらいました。

その言葉に導かれるように、娘の入園と同時に保育園で看護師として新たな一歩を踏み出すことになりました。

園児の細やかな観察と緊急時の対応ができるのは、看護師ならでは

保育園と病院で、仕事の違いはありましたか。

園にもよるかもしれませんが、私は全園児の健康状態の把握や手洗い指導、保健だよりでの情報発信、職員の健康管理、他にも特に体調の変化が激しい0歳児クラスの担当など、さまざまな役割を担いました。

子どもは大人と違って、自分の体の具合をうまく言葉にできません。わずかな体調の変化に気づくためには、健康なときの様子をよく知っておく必要があります。そのため、各クラスをまわって子どもたちと過ごす時間を大切にしてきました。

ただ、看護師の知識や経験を買われて園に在籍してはいるものの、保育士の先生方も子どもの病気や発達について、とても詳しいんです。そのため、最初の頃は看護師としての自分の存在意義によく悩んでいました。

そんな私に、当時の理事長と園長が「看護師さんがいてくれると、本当に安心なんです」「置かれた場所で精一杯頑張ることで、きっと周りもあなたの価値に気づいてくれますよ」と声をかけてくれて。周りの方々の温かい励ましに支えられ、少しずつ自信をつけていきました。

看護師としての経験が、保育で活きたエピソードを教えていただけますか。

ある年の運動会での出来事は、今でも鮮明に覚えています。突然、一人の園児がけいれんを起こしてしまって。突然のことで場が騒然となる中、私は考えるよりも先に自然と体が動いて、職員や保護者にもご協力いただきながら、救急搬送までスムーズに対応することができました。

平穏な保育園の日常の中でも、医療の知識が必要になる場面は少なくありません。子どもたちと安全かつ健康に過ごす時間を守るために、日頃の細やかな観察と緊急時の対応ができるのは、現場経験のある看護師ならではかもしれませんね。

職種は関係ない。子どもを思う気持ちが何よりも大切

保育園の看護師から、園長先生になった経緯を教えてください。

当時の園長の産休をきっかけに、元園長である理事長から「次の園長をやってみないか」と声をかけてもらったんです。それまでは、私が園長になるなんて考えたこともなくて。なにより、保育士ではなく看護師として保育園で働いてきた私に、園長が務まるのだろうかと不安の方が大きかったです。

そんなときに背中を押してくれたのが、保育園という道を示してくれた理事長でした。理事長も、実は保育士ではなく管理栄養士の資格を持ち保育園で活躍していました。専門は違えども、子どもたちへの深い愛情を持って園を運営していた姿を、私は長年見てきました。

例えば、うちの園の給食は、おいしくて栄養のバランスもとてもいいんですよ。普段は苦手なものが多い子どもたちも、喜んで食べているんです。そんな、管理栄養士の経験と知識を活かして、子どもたちの笑顔と健康を守ってきた理事長から、「職種は関係ない。子どもを思う気持ちが大切」と背中を押してもらって、園長としての第一歩を踏み出すことができたんです。

似た背景を持つ理事長が、小澤先生のロールモデルだったのですね。では現在、園長として小澤先生が大切にされていることを教えてください。

以前は看護師として、子どもたちの発達や健康を見守ることが私の生活の中心でした。でも園長になってからは、園のすべてのことに目を向け、職員から相談を受けるようになりました。

私は、園長は「甘やかし役」になることも大切だと感じています。日々頑張っている子どもたちにとって、ときには気が抜ける存在も必要なのではないでしょうか。そういう意味で、私は「子どもたちが安心して甘えられる、クラスの担任とはちょっと違う先生」でありたいと思っています。もちろん基本的なルールは守りながらですが、園生活の中で子どもたちの心がホッとできる時間も大切にしたい。園長は特定のクラスを持たないからこそ、そんな存在になれると思うんです。

園長の仕事で看護師時代の経験を活かせているな、と思うことはありますか?

子どもたちが安心・安全に園生活を送れるように、応急手当講習を園内で実施しています。また、月に一回全職員が集まって、病気や事故の際のシミュレーションをしたり、子どもたちの心身の成長について保育士としてできることを議論するグループワークを開催したりもしています。

グループワークを通じて、職員の方々に変化は感じられましたか。

これまで以上に、職員たちが正しく事故や病気を恐れて、きめ細やかな保育をしていると感じます。子どもたちの心身を傷つけてしまうような保育は、園全体で防がなければいけません。そのためには、常に責任感を持って行動する必要があると思います。ただ漠然と恐れるのではなく、まずは知識をつけることが大切です。研修を経て、今まで以上に職員一人ひとりが、保護者ときめ細かくコミュニケーションを取り、子どもの発言をしっかり聞いて見守る姿勢を持てるようになったと感じています。

日々の小さな積み重ねが、困難な時期を乗り越える力になった

正しい知識を身につけたうえで、丁寧に保育されているのですね。そういった園の姿勢が活きた場面はありますか?

新型コロナウイルスが流行したとき、保護者の方々も大変な状況だったと思うんです。そんな中、「先生たち、いつもありがとう」と声をかけていただくことが多くて、すごく嬉しかったです。職員と保護者がお互いを尊重し、協力しながら子どもたちの園生活を守ることができたのだと思います。

これは、職員一人ひとりが日頃から保護者や子どもたちと向き合い、築いてきた信頼関係があってこそいただけた言葉です。日々の小さな積み重ねが、困難な時期を乗り越える力になったのだと感じています。

最後に、保育業界を目指している方へメッセージをお願いできますか。

一人ひとりの特性や発達に合わせた関わりが必要で、マニュアル通りにはいかないことも多いのが保育の仕事です。世の中ではデジタル化が進んでいますが、定型化できないこの仕事は私たち「人」にしかできません。それは、これから先も変わらないと思います。

そして、保育は筋書き通りに進まないからこそ、想像を超える喜びにふれられる仕事でもあります。子どもたちの笑顔に囲まれて過ごす時間は何物にも代えがたいものです。未来ある子どもたちの成長に関わりたい、そんな方には、ぜひこの業界に飛び込んできてほしいです。

(取材・文:仲奈々、撮影:岡村大輔、編集:コドモン編集部)

小澤先生が働いている園
施設名:あおぞら保育園
形態:認可保育園(90名)
設立:2003年
所在地:埼玉県さいたま市中央区上落合8-11-20

※2024年12月13日時点の情報です

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