子どもが楽しみながら挑戦できるよう、一人ひとりの「安心」と「安全」を守りたい【田仲雄貴先生】

すてきな園長先生

今回お話を聞いた方

田仲雄貴(園長)
出身地:埼玉県さいたま市
職歴:家具会社(営業)、保育園(事務)、保育園(園長)
園長先生歴:10年目
趣味:家族旅行、ゴルフ
日課:家族での食事

保育の道に進んだきっかけは、母が運営していた託児所の手伝い

保育の世界に入ろうと思ったきっかけを教えてください。

私の母が幼稚園教諭をやめたあと、託児所を運営していたことが、そもそものきっかけです。母は日頃から「子どもが楽しんだり、挑戦したり、頑張ったりするためには、安心できることが大事なんだよ」と言っていて、子どもたち一人ひとりを大切にしていた姿が印象に残っています。大人でも同じで、不安な状況では頑張れないですよね。

働くお母さまの後ろ姿を見てこられたのですね。

そうですね。中学2年生からは、私が運動部(サッカー)に入っていたこともあって、母に「(託児所の)運動会を手伝ってよ」と頼まれるようになりました。当時は30〜40人のお子さんを預かっていたと思います。私はもともと子ども好きだったのですが、最初はどちらかというとお小遣い目当てで引き受けました(笑)。

ところが、実際に運動会を手伝ってみると、頑張る子どもたちの姿が尊くて涙が止まらなくなってしまって……。「子どもってすごいな!」と。そのときすぐに「保育の世界に入りたい」と思ったわけじゃないんですが、とにかくいい仕事だなあと思いました。

では、実際に保育の仕事をしようと思われたのはいつ頃だったのでしょうか。

12年前です。当時、家具会社で営業をしていて、いい上司や同僚に恵まれて楽しく働いていたのですが、30歳を目前にして、この仕事は自分には向いていないかもしれないと悩んでいました。

そんなとき、ちょうどまた母の託児所の運動会の手伝いにいったのです。再び、とても楽しそうに頑張っている子どもたちの姿を見て感動し、「母の保育をもっと広げていきたい」「母と一緒に保育園を運営したい」と思いました。

当時、各自治体が認可保育園を積極的に増やしていた時期だったので、母に「認可保育園にしないの?」と聞いてみたところ、「やり方がわからない」と。それなら自分がやろうと役所に問い合わせて、社会福祉法人を立ち上げるところから始めました。

すごい行動力ですね! お母さまも驚かれたのではないでしょうか。

最初、母は「大変になるから嫌だ」と言っていました(笑)。でも日頃から母に進捗を報告しながら書類を整え、いよいよ市役所で面接を受けるところまでこぎつけ、「明日の面接に一緒に来てほしい」と頼むと、初めてうなずいてくれたのです。こうして無事に社会福祉法人を立ち上げ、認可保育園の開設へと進むことができました。

母は昔から私に厳しかったので、あまり褒められたことがなかったのですが、保育園の開園式のときにひとこと「よくやったね」と言ってくれたことがとても嬉しかったですね。

親子で共に始めた認可保育園。ところが母が病に倒れて

開園当初は、お母さまが園長を務められていたのでしょうか。

母が園長で、家具会社を退職した私が事務を担当していました。順調なすべり出しだったのですが、その年の終わり頃に母が体を壊してしまい、徐々に体調が悪化していって……。2年後に他界しました。当時は息子としてとても悲しいだけでなく、急に私が園長を務めることになったので、保育園の運営に少し不安を感じましたね。

これからというときに、すごく悲しく大変な思いをされたんですね。

そうですね。本当にこれからというときだったので、非常に悲しく残念でした。ただ、もともと私はポジティブな性格なので「やるしかない!」と思い、施設長になるための研修を受けたり、保育の勉強をしたり、必死になりました。子どもたちや職員のためにも、園を問題なく続けることができて本当によかったと思っています。

以前、母が運営していた託児所「チャイルドルーム」を保育園にして残してあげたい、という思いも原動力になっていたのですが、これは最近やっと叶えることができました。

もちろん、今もですが、当時も職員の助けが大きかったと思います。本当にありがたかったです。また、約160園が参加する「さいたま市私立保育園協会」の同世代の園長先生たちにもいろいろ教えていただいて、助けていただきました。今でも2か月に1度の会議では、園長としての悩みを共有したり相談したり、制度について聞いたりして助け合っています。

田仲先生が保育において大切にされていることを教えてください。

「子どもの安心」です。これは母から受け継いだ考えですが、子どもは安心することで気持ちが安定して、さまざまなことに積極的になれます。思いっきり遊んだり、好奇心を発揮したり。そうすることで、ますます成長していくことができるのです。

ただ、安心できる状況というのは、一人ひとり違います。集団生活のなかで子ども一人ひとりと向き合うのは難しいことですが、諦めないことが大事だと思っています。

園長として大事にされているのは、どういうことでしょうか?

子どもたちに接する職員もまた安心して働けるようにする、ということです。大人でも安心の条件は一人ひとり違うと思います。お給料が高いと安心できる、人間関係が穏やかだと安心できる、休みが取りやすいと安心できる……それぞれに優先順位が違うのです。

この保育園には32人の職員がいるのですが、私は一人ひとりが安心できるよう面談などで話を聞き、それぞれの気持ちや希望にできるだけ寄り添いたいと思っています。もちろん、できていないこともたくさんあるので課題は山積みですが(笑)。

職員が「今年も楽しかった!」と言ってくれたとき、本当によかったと心から喜びを感じます。離職率が低いことも、すごく嬉しいですね。

具体的には、どんな施策をされているのでしょうか。

例えば、できるだけ職員が休みを取りやすいようにしています。職員のお子さんが体調不良のときや行事のときには休みを取れるようにしたいと思っていて、普段から少しゆとりのある職員数にしているんです。誰だって家族あっての仕事ですからね。

大切なお子さんを預かるのだから「安心」「安全」の両方が大事

保育のどんなところに喜びややりがいを感じられていますか?

うちの園では生後2か月のお子さんから預かっているのですが、眠ってばかりだった乳児がいつの間にか園庭を自由に駆け回ることができるようになっているのを見ると、やっぱり嬉しいですね。子どもの成長していく姿は、とてもいいものです。

反対に保育の難しさを感じることはありますか。

大切なお子さんを預かるわけですから、「安心」だけではなく、「安全」も守らないといけないところだと思います。

子どもたちが主体的に遊んだり活動したりしていくなかで「絶対にケガをさせない」ということは難しいこと。100%安全を守ろうとするなら「あれは危険だから」「これも危ないから」と何もかも禁止することになりますから不可能です。

それでも、できるだけ安全に配慮していく必要はあります。きちんと基準を守って安心かつ安全な状態で保育をしていくーーこれが「保育の質」ということだと思います。

今後の目標を教えてください。

地域あっての保育園なので、今もハロウィンなどのときには地域の多数の方に遊びにきていただいていますが、これからはもっとさまざまな交流ができたらと思っています。「将来、保育士になりたい!」という子どもが増えるように、小中学校の「職業体験」なども引き受けたいなと。

そして、これまでは保育園だけに専念してきましたが、これからは社会福祉法人としても地域を盛り上げることに貢献できたらと考えています。

最後に、保育業界を目指している人たちへメッセージをお願いします。

保育は、子どもの命や育ちを預かるわけですから、とても大変な仕事ではあります。

ただし、本人のモチベーション次第ですが、子どもと向き合っていくことで、きっと元気やパワーをもらえたり、さまざまな気づきが得られたりすると思います。保育士を目指している人は、ぜひ頑張って勉強して、夢を叶えてください。

就職の際は、最初から自分の価値観にピッタリと合う園を探そうとすると、難しいと思います。ある程度、価値観が合うところに入職し、自分の核となる信念はそのまま持ちながら、さまざまな人の意見を聞いたり、経験を積んだりして、職場の人たちと共通認識を持てるよう努力していくことをおすすめします。そうすることでステップアップできると思いますよ!

(取材・文:大西まお、撮影:岡村大輔、編集:コドモン編集部)

田仲先生が働いている園
施設名:桜花保育園
形態:認可保育園(100名)
設立:2012年
所在地:埼玉県さいたま市大宮区桜木町4-554-1

※2024年12月4日時点の情報です

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