言葉では伝えきれない「あたたかさ」「心のつながり」を大事にしたい【飯島彩子先生】

すてきな園長先生

今回お話を聞いた方

飯島彩子(園長)
出身地:千葉県野田市
職歴:幼稚園、保育園で20年以上勤務
園長先生歴:6年目
趣味:おいしいものを食べること、息子のサッカー観戦
愛読書:『金子みすゞ童謡集』(ハルキ文庫版)
日課:半身浴、朝食メニューの記録

一番の喜びは、子どもと「心が通じた」と感じた瞬間

保育の仕事をしていて、やりがいや喜びを感じる瞬間を教えてください。

たくさんあるのですが、やっぱり一番は子どもと「心が通じた」と感じた瞬間です。

先日、4歳の子が友達とケンカをしました。きっと双方がイライラしていたんでしょうね。片方の子が手を出したので、それはよくないと話しました。ところが、その子がどうしたって私の目を見なくて(笑)。だから「園長先生の目を見てお話を聞くんだよ」「目を見ないとお話にはなっていないよ」と伝えました。それでも、そっぽを向いたままで「わかった」「うんうん」って言うんです。

だから再び、「先生はあなたの目を見て話をしたい。そうじゃないと伝わらないんだよ。お話には、おくちとおみみだけじゃなくて、おめめも使うんだよ」って言ったら、ちらっとだけ見るようになって(笑)。「ずっと見ていられるといいんだけどな〜」って言ったら、ちゃんと頑張って見るようになったんです。「すごいじゃない。最後にはきちんと目を見てお話できるようになったね」と褒めました。

きっとそのお子さんは、先生の愛情を感じたのでしょうね。

そうかもしれません。今では「園長先生〜」って私のところに来て、「ぼくね、ぼくね」と目を合わせて一生懸命に話してくれるようになりました。気持ちが通じたなあと嬉しく思っています。子どもがたくさん話しかけてくるのは、「この人ともっといろんな話をしたいな」と思ってくれた、信頼してくれたということですから。

子どもが物事を理解できるようわかりやすく説明するだけでなく、同時に「あなたのことが大好きだよ」「あなたのことを見てるよ」という気持ちが伝わるようにすることが重要だと思っています。そうして、子どもの気持ちがねじれたり、子どもがそっぽをむいてしまったときに、まっすぐに戻る手助けをするのが、私たちの大切な仕事のひとつだと思っています。

保育においてもっとも大切にされていることはなんでしょうか?

心のつながりとあたたかさを大切にしています。

あたたかさってね、「こういうことです」って言葉で完全には説明できないんです。こうしたらあたたかいという方法を書いたり、本にしたりもできません。目で見ることも、さわることもできません。それでも、ちゃんと愛情があったり、気持ちを込めていれば、必ず伝わるものです。例えば、朝の登園時に笑顔で「おはよう! 待ってたよ」と演技ではなく、心からそう思って言えば、必ず気持ちは伝わります。

何か嫌なことがあっても、保育園の職員が笑顔で待っていたら、子どもにも保護者の方にも「ここは拠り所になる」って感じてもらえるかも、と思っています。実家のような、あたたかい場所を作りたいんです。

どんな部分に保育の大変さを感じますか?

保育園は、人の思いが交錯する場所です。子どもも、保護者の方も、職員もそれぞれ立場や性格や価値観、モノの見え方が違います。それぞれにプライベートで大変なこともあるでしょう。だから、お互いに気持ちのバランスが取れず、誤解や衝突が生じることもある点が大変ですね。けれども、そこがうまくいくよう努力することにやりがいも感じます。

具体的にはどのような努力をされているのでしょうか。

私は、子どもはもちろん、保護者の方、職員、それぞれの人との関係を大事にしたいし、理解し合いたいと思っています。それには、「お互いにしっかりわかり合う」ことが大切です。

保護者とは、送迎時にお話をしたり、連絡帳にお悩みを書いていただいたり。お悩み相談には文章でお返事をせず、直接お話をする時間を作っています。私も他の職員も、個人面談のときでなくても「いつでも話しましょう」というスタンスです。小さな疑問や不満があれば、いつでも声をかけてほしいと思っています。

子どもも職員も同じです。一人の人間として見るというのを基本にしているので、対子ども、対保護者、対職員で、態度を変える必要はないですよね。うちの職員たちも、こうした考えのもと、仕事と向き合ってくれています。

自分が幼稚園児だったときからいつか先生になりたかった

飯島先生が、保育の仕事に就かれた理由はなんですか?

子どもの頃からの夢だったからです。私自身は幼稚園に通っていたんですが、その頃から「先生になりたい」と思っていました。とくに憧れの先生がいたというわけではないんです。ただ、先生たちがやっていることが楽しそうだな、私もやりたいなと思っていました。まだ自分自身が園児だったのに(笑)。

初めて幼稚園に入職されたときは、どう感じましたか?

最初に入職した千葉県の幼稚園では、4月にすぐクラス担任になり、始業式で子どもたちが「先生」と呼んでくれたときに、本当に嬉しかったのをよく覚えています。「やっと夢を叶えられた!」という気持ちでした。

でも、そのあとは目の前のことに追われる毎日(笑)。幼稚園教諭の仕事も初めてなら、社会人としても右も左もわからず、子どもたちや保護者のみなさん、先輩や同僚との関係性を築くのも初めてで、今思えば3年間必死でした。でも、本当にいい先輩や同僚に恵まれて支えてもらい、楽しく働けたと思います。

他の幼稚園に転職されたきっかけを教えてください

幼稚園でも保育園でも同じですが、いろいろな方針の園があるので、他のところも見てみたいと思ったのがきっかけです。2園目は、東京都の幼稚園だったのですが、運営法人の特色や方針、子どもに対する考え方、先生方の年齢層も違って、とても勉強になりました。

1園目は若い世代が多かったのですが、2園目は幼稚園教諭歴20〜30年のベテランの先生方がたくさんいたので、片付けが得意な先生は片付けをし、絵が好きな先生は絵を教え……というふうに、各自が分担してひとつの大きなチームを作るというスタイルでした。

まだ20代だった私は、それまで「絵が描けるようにならないと」「ピアノも上達しなきゃ」「子どもとの接し方を学ばなきゃ」「保護者の方への対応も上手にならないと」と、全方向にがむしゃらに力を注いでいたのですが、自分の得意なところに注力することでこんなに伸びやかに仕事ができるんだな、分担すればチームが成り立つんだなと感じたんです。

その後、妊娠出産でいったん退職されたんですよね。

2園目を退職して出産し、1年くらいお休みしたんです。でも、子どもを保育園に入れてあげたいと思っていたし、自分自身も社会でまだまだできることがあると思っていたので早めに復帰したいと考えました。

それまで幼稚園しか知らなかったので、視野を広げたいと思い、最初は託児所や保育園にパート勤務することに。これはこれで勉強になったのですが、担任の先生のバックアップが主な仕事だったので、やっぱり自分で担任したいと思うようになり、3園目になる千葉県の幼稚園に再就職しました。

現在の保育園へうつられたのは、先輩の紹介だったとか?

そうです。1園目に勤めていたときの先輩から「新しく保育園を立ち上げるから働いてみない?」とお声がけいただいて。自分の子どもを預けていたので、保育園の先生のありがたさ、存在の大きさっていうのは本当に身に染みていましたし、ぜひ同じように保護者支援、保育をしてみたいと思いました。それで保育士資格を取得しました。

子どものかわいさの奥に、保育の本当の面白さがある

園長になられた経緯を教えていただいてもいいでしょうか。

1年目は一般の職員だったんですが、その後、前の園長が退職されて「園長をやってみない?」とお声がけいただいて「私にできるだろうか」と悩みました。私は何より保育の現場が好きですし、園長になりたいと思っていたわけではないこともあって……。でも、まだ2年目の園で、園長も現場に出ながら「みんなで一緒に園を作っていく」という方向だったからやってみようと決意しました。

園長として大事にしていることを教えてください。

職員全員が気持ちの余裕を持てるようなチームづくりをしていくことを、何より大事にしています。そのためには事務仕事などの量を減らすことが重要で、ICTを活用したり、自分のペースで仕事してもらったりと工夫しています。

それから、なるべく残業しないこと、どうしても残業したい場合でもストイックになりすぎないことをすすめています。もちろん、やらないといけないこともあるけれど、「あんまりこんを詰めないで」「明日一緒にやろう」などと声かけをしたり。

そう言ってもらえると、気がラクになりそうです(笑)。

保育は子どもが相手ですから、1日の計画をしっかり考えていても、すべてが思い通りにいくことはありません。でも、それでいいんです。日々、子どもとしっかり向き合うことのほうが重要だと思っています。

例えば、子どもたちが昼食の30分前に「ちょっとお外に行きたい」と言うこともあるわけです。先生としては「もう昼食の準備をしたいのに〜」と思うこともあるでしょう。でも、うちの先生たちは割と子どもたちの主張を受け入れて、外へ行くんですよ。「そうか、いい考えだね。じゃあ、お昼ごはんの時間までだから20分くらい行く?」って。

こうしていろいろなパターンが毎日降ってくるから、柔軟じゃないと対応できないんです。もしも職員が「園長に指摘されるから早くやらなきゃ」って思っていると、子どもに対して100%の力を注げなくなってしまう。私は子どもを一番に優先してほしいから、他は柔軟に対応したらいいと思っています。

今後の目標を教えてください。

今と変わらず、園と自分と先生たちがここにいることです。実は同じ状態を維持することって、意外と難しいんですよね。だからこそ「この園はずっと変わらずに、ここにある」という存在になりたいと思っています。

昨日もちょうど卒園生にばったり会って立ち話したんですが、「私はいつもここにいるから、いつでも来てね」と伝えました。地域のつながりの中継点になれたらと思っています。

最後に、保育士を目指している人へメッセージをお願いします。

保育施設や幼児施設は、大人も子どもも関係なく、人と人とが深く交わる場所です。他人と交わるというのは、心と心がふれ合うということ。毎日、顔を合わせて挨拶したり、他愛もない話をしたり……子どもたちや保護者のみなさん、職員などのいろいろな人と交わることで、きっと人ぞれぞれ見えてくるものがあると思います。

子どもが好きで、かわいく思うのは大前提。保育の仕事をすると、さらに「子どもが好き」「子どもがかわいい」だけではなく、その奥にある人と人との交わりの尊さ、人間のよさ、保育の面白さがわかってくるはずです。私は毎日「ここにいられてよかった」と思っています。

そういう素敵な職場で、子どもたちと一緒に豊かな時間を過ごしたい人は、ぜひ保育士を目指してください!

(文:大西まお、撮影:池田博美、編集:コドモン編集部)

飯島先生が働いている園
施設名:Kanade流山セントラルパーク保育園
形態:認可保育園(80名)
設立:2018年
所在地:千葉県流山市後平井170

※2024年11月13日時点の情報です

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