保育は、趣味や特技を軸にいくらでも専門性を高めていける仕事【小宮山武人先生】

すてきな園長先生

今回お話を聞いた方

小宮山武人(園長)
出身地:東京都の下町
保育園勤務歴:40年
園長先生歴:9年目
趣味:読書、バイクいじり、野球観戦

保育士1年目は、不安との戦いから始まった

小宮山先生が保育士を目指したきっかけを教えてください。

高校生のとき、新聞のコラムで男性保育士の記事を見つけたことがきっかけです。保育園には男性の先生もいて、女性の保育士と変わりなく、子どもたちの成長を見守っている。そんな男性保育士の体験に感銘を受けて、保育士を目指すようになりました。

子どもに関わる仕事に興味を持ったのは、何か理由があったのでしょうか。

物心ついた頃には、自分よりも小さい子のお世話をするのが好きな子どもだったんです。親戚の子どもたちが集まると私が一番年上で、遊びを仕切ったり、教えたりするのがとても楽しかったんですよね。漠然と「大人になったら、子どもたちと関わる仕事がしたい」と思っていたところに、新聞記事との出会いがあり保育士の道を選ぶことになったのです。

実際に保育の現場に飛び込んでみて、どんな発見がありましたか。

最初は「子どもたちと楽しく遊べればそれで充分」という思いだけで保育に向き合っていました。でも現場に入ってすぐに、それだけでは足りないことに気づかされたんです。子どもたち一人ひとりの未来を見据えて、今この瞬間に何が必要なのか、そのために自分は何を学びどんな経験を積むべきなのか、必死に考える日々が始まりました。

入職したばかりの頃は、1歳児クラスを担当されたそうですね。

4年間同じ年齢のクラスを担当して、本当に多くのことを学びました。遊びだけでなく、食事や睡眠、排せつなど生活のすべての場面で子どもたちの成長を支えていくことの大切さを、先輩方から教わりながら少しずつ理解していきました。

1年目はすべてが手探り。「これでいいのかな」という不安との戦いでした。2年目になってようやく、去年の経験を思い出しながら「この時期だからこそできること」が見えてくる。3年目には「今の子どもたちなら、こんなことにも興味を持ってくれるかもしれない」と、先を見通した保育ができるようになってきて。そうやって少しずつ、保育の奥深さとやりがいを実感するようになりました。

そんな中で、手作りおもちゃとの出会いがあったのですね。

はい。経験を重ねるにつれ、子どもたちの発達に合わせて「今、どんなおもちゃがあれば楽しめるだろう」と考えるようになったんです。木を使って作ったり、段ボールで工夫を重ねたり。子どもたちが夢中になって遊ぶ姿を見ながら「この大きさなら小さな手でも持ちやすいな」「この色に子どもたちが惹かれるのはなぜだろう」と、毎日が工夫と発見の連続でした。

実は、それまでは「私にはこの仕事は向いていないのかもしれない」と悩んでいた時期もあったんです。でも、自分で作ったおもちゃに子どもたちが笑顔で飛びついてくる。その姿を見たときの喜びは、何物にも代えがたいものでした。その後、手作りおもちゃを使った遊びの実践について発表する機会があり、他の先生方と意見を交換する中で、保育のおもしろさにどんどん引き込まれていったんです。

年齢が違っても、子どもたちの「わくわく」する気持ちは同じ

小宮山先生がすごく楽しんで保育されていたことが伝わります。

当時勤めていた園は、新しいことへのチャレンジを後押ししてくれる環境でした。さまざまな保育実践を重ねる中で、働き始めて10年が経つ頃には、子どもたちと過ごす瞬間一つひとつが私にとって深い喜びに変わっていました。

一方で、時代は大きな転換期を迎えていて。教育現場にパソコンが導入され始め、私も「新しい形で子どもたちに関わる仕事をしてみたい」と考えるようになりました。そこで思いきって15年目で転職して、教員向けにパソコンを活用した授業を提案する仕事に挑戦することになったんです。小学校から高校まで、さまざまな教室で模擬授業をする機会を得ました。

パソコンの授業で魅力的な題材を用意すると、小学生は目を輝かせながら「先生、次は何するの?」と食いついてくる。中学生も興味を示し、一見クールな高校生でも、おもしろそうなものを見せると自然と集まってくる。「年齢が違っても、子どもたちの『わくわく』する気持ちは同じなんだ」と気づきました。そして同時に、そんな子どもたちの姿を見て、とても満足している自分自身を発見したんです。「ああ、私はずっと変わらず子どもたちを楽しませたいんだな。だとしたらまた、自分の専門である保育業界に帰りたい」という気持ちが少しずつ芽生えてきたんです。

別業界で勤める中で、子どもたちへの思いを再確認されたのですね。その後は、保育業界に戻られたのですか?

はい、おかげさまで。当時は企業での保育園運営や公立園の民営化が進み、「保育もサービスだ」という考え方が生まれ始めた時期でした。保護者の方々によりよい環境を提供したい、子どもたちの成長をより豊かに支えたい。そんな思いから、一般企業の社員として保育園の立ち上げに携わることも行いました。

やはり運営側から保育の現場にも戻りたくなり、公立保育園の民営化を行う社会福祉法人に転職をしました。最初は本当に苦労の連続でした。当時は公立保育園の保育が主流という考えがあり、民営化の園はまだまだ少なく、運営体制も発展途上でした。だから、保護者から「民間には子どもを預けたくない」と直接言われることも少なくなかった。

ただ、そんな厳しい状況だったからこそ、「保護者の方々と同じ目線に立つこと」の大切さに気づけました。私たちがよかれと思ってやっていることも、保護者の視点に立つと違った見え方をするのかもしれない。ならば、職員だけでなく保護者や子どもたちと一緒に保育をつくり上げていこう、と考えるようになったんです。

具体的にはどのような取り組みをされたのですか?

まずは、子どもたちの「やってみたい」という気持ちを大切にしました。日が暮れるまで園庭で思いきり遊んだり、近くにできた新しい公園や商業施設まで散歩に出かけたり。子どもたちの「もっと見たい、知りたい」という好奇心に寄り添って、行動範囲を少しずつ広げていきました。

すると、次第に職員間でも「こんなことをやってみない?」という提案が活発に出るようになってきたんです。行事についても、従来の形にとらわれず、子どもたちも保護者も心から楽しめる種目になるよう試行錯誤しましたね。その後、段々と保護者の方々も一緒になって、行事の準備や運営に関わってくださるようになり、園全体がひとつになっていく手応えを感じました。

園の運営に関わり始めた当初は、「楽しいことばかりやっている先生」と揶揄(やゆ)されることもありました。それが、徐々に「一緒にいると楽しそうな先生」に認識が変わっていき、ついには「先生と一緒なら、新しくて楽しいことができそうだ」と期待してもらえるようになりました。子どもたち、保護者、職員みんなでつくり上げていく保育の楽しさを、心から実感できた日々でしたね。

どんな大人に成長していくのか、想像するだけでも楽しくなる

現在は当時とは違う園に所属し、園長として新たな挑戦をされているそうですね。

はい。今の園では園長を任されて4年目です。子どもたちが遊びに夢中になり、その経験が確かな成長につながっていく。そんな保育の素晴らしさを、長年の経験を通して実感していたからこそ、今の園が掲げる「遊びこそ豊かな学び」という理念にとても共感したんです。
園長という立場に就いたことで、子どもたち一人ひとりの成長により深く寄り添えるようになりました。遊びの中で見せる子どもたちの新しい発見や気づき、そこから学びの芽が生まれる瞬間。そういったものを見逃さず、次の成長につなげていける環境づくりに、より柔軟に取り組めることは嬉しいですね。

園長になった今でも、試行錯誤の毎日です。子どもたちにとって理想の環境を追求するあまり、ときには「園長先生、ちょっとやりすぎ!」と職員から指摘されることもあります(笑)。でも、子どもたちの笑顔のために何ができるのか、その問いに向き合い続けることが、園長である私の役目だと思っています。

素敵な考えですね。常に新しいことに挑戦し続けてきた小宮山先生ですが、これから挑戦したいことはありますか?

地域全体で子どもたちの成長を一緒に見守っていける関係を、少しずつ整えていきたいですね。地域の小中一貫校との連携も始まっており、「保小連携」という言葉も聞かれるようになりましたが、本格的に連携を進めるのはこれからという状況です。

特に2025年は、私がこの園で働くようになってから、初めて開園当初から見守ってきた子どもたちが小学校に進学する特別な年です。遊びを通じて学ぶ喜びを知った子どもたちが、小学校でどんな新しい発見をしていくのか。どんな大人に成長していくのか。想像するだけでもわくわくします。今からとても楽しみです。

最後に、保育士を目指す人へのメッセージをお願いします。

子どもが好きな人には、ぜひ保育士を仕事選びの選択肢に入れてほしいです。子どもたちと過ごす中で、自分も一緒に成長していける。保育士はそんな素敵な仕事です。
私自身、40年近く保育に携わってきましたが、今でも子どもたちから新しい発見や気づきをもらっています。そして、保育士が心から楽しいと思いながら接しているときは、子どもたち自身も楽しんでいるんです。

例えば保育園で歌を歌うなら、ライブ会場のような臨場感を出す。外遊びなら、自然の不思議さに一緒にわくわくする。そんなふうに、自分の好きなことや得意なことをどんどん保育に活かしていってほしい。趣味でも特技でも、どんなことでも保育に活かせる可能性があると思うんです。
私たち大人が生き生きと楽しんでいる姿を見せることで、子どもたちも自然と笑顔になれる。それがこの仕事の醍醐味だと思っています。

(取材・文:仲奈々、撮影:池田博美、編集:コドモン編集部)

小宮山先生が働いている園
施設名:無二保育園
形態:認可保育園(60名)
設立:2021年
所在地:東京都葛飾区細田3-16-5

※2024年11月18日時点の情報です

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