令和8年度までにICT導入率100%へ 保育現場における保育ICT導入と今後の展望

政策解説

令和8年度までに保育施設でのICT導入率100%を目指すことがこども家庭庁から示され、保育現場のDX化が加速しています。この記事では、自治体職員様向けに、保育業界を取り巻く環境の変化、こども家庭庁が目指す「保育DX」の具体的な内容、保育ICTと連携した施策、そして今後の展望について詳しく解説します。

昨今の保育業界を取り巻く環境の変化

1. 保育ニーズの変化

かつて待機児童問題が深刻でしたが、保育の受け皿の整備が進み、令和6年には待機児童数が大幅に減少しました。しかし、都市部では定員充足率が高い一方で、過疎地域では定員割れが起こるなど、地域差が顕著になっています。 このような状況から、保育現場は従来の「量の拡大」から「質の確保・向上」へと重点を移しています。


出典:保育所等関連状況取りまとめ(全体版)/厚生労働省

2. 保育現場の課題

保育現場では、質の高い保育実践と保育所機能が発揮されていますが、それは保育所や保育者の努力の上に成立しているのが現状です。
厚生労働省の調査によると、保育士資格を持ちながら保育士として就業を希望しない人の割合は約半数に上り、その理由として賃金や休暇の取りにくさなどがあげられています。 東京都の調査では、保育士の退職意向として「仕事量が多い」「労働時間が長い」といった業務過多に関する項目が上位に入っており、保育士のなり手不足を改善するためには、保育士の処遇改善や勤務環境の改善への取り組みが欠かせません。


こうした状況に対し、政府は保育士の処遇改善や配置基準の見直しなどの対策を講じていますが、施設や自治体も独自の取り組みを進めています。具体的には、ペーパーレス監査の実施や独自の配置基準を設けるなど、業務効率化と保育の質向上を目指す動きが広がっています。

このように保育現場の課題を解決し、保育の質を向上させるための手段として、ICTの活用が注目されています。近年では、感染症対策や安全対策の観点からも、ICT導入の重要性が認識されています。

こども家庭庁が目指す「保育DX」とは

1. 保育DXとは

保育DXとは、デジタル技術を活用して保育現場の業務効率化や質向上を目指す取り組みです。 保育現場におけるICT導入は限定的で、手書きやアナログ業務が主流です。そのため、保育施設職員は給付請求や監査の書類作成などの事務負担が大きく、自治体職員に関しても提出された書類の審査やシステムへの入力作業などの業務負担が大きいのが現状です。そこでこれらの業務負担を軽減し、保育の質を向上させるために、業務のデジタル化=保育DXが推進されています。

2. 保育DX推進のロードマップ

こども家庭庁は、保育DXを段階的に推進するためのロードマップを示しています。フェーズが2つに分かれており、令和8年度から始まるフェーズ2では、給付・監査・保活など、保育施設と自治体、そして保護者にとっても大きな負担となっている業務をデジタル化していくことが打ち出されています。これらのデジタル化は、業務支援システムからの情報連携を前提としています。

■フェーズ1(令和7年度)

保育ICTの導入を推進し、保育現場におけるICT環境を整備します。
保育ICTのロールモデルとなる事例を創出し、全国への展開を目指します。

■フェーズ2(令和8年度)

給付・監査・保活など、保育に関する各種手続きのオンライン化を目指します。
保育施設と自治体間の情報連携基盤を構築し、各種システムとの連携を強化します。


出典:保育現場におけるDXの推進について/こども家庭庁

こども家庭庁の保育DXの終着点は、上記のフェーズ2の実現であり、各種手続きをシステム内で行うことができる環境をつくることです。そのための土台づくりとして、令和7年度中にフェーズ1「保育所等におけるICT環境整備」(=保育ICT導入率100%)を達成する必要があるのです。

保育ICTと連携した施策の増加

保育ICTは、導入後こども家庭庁が推進するさまざまな施策と連携することで、その効果をさらに高めることが期待されています。また、ICT導入を推進するための施策も予定されています。

1. こども誰でも通園制度

こども家庭庁の政策の柱の一つである「全ての子どもの育ちと子育て家庭を支援する取組の推進」のための施策「こども誰でも通園制度」においても、将来的に保育ICTとの連携が構想されています。

2. 1歳児保育の加算要件

令和7年度には、1歳児保育の加算要件にICTの導入を加えることが言及されており、今後ますます保育ICT導入の推進・導入を前提とした施策が実行されていくことが予想されます。

詳しくはこちらの記事で解説していますので、あわせてご覧ください。
【R7年度】保育士の配置基準変更点と加算措置についてわかりやすく解説します

保育ICTの導入効果と反響

保育現場から自治体まで、保育ICT導入の効果が顕著に現れています。保育士の負担軽減、保育の質向上、保護者や学生のニーズへの対応、自治体業務の効率化など、多岐にわたるメリットが確認されています。保育DXの進化とともに、これらの効果はさらに拡大するでしょう。

1. 保育現場における効果

保育ICTの導入は、調査やアンケートから、保育士の負担軽減に役立っていることがわかってきています。具体的には、「朝の欠席、遅刻の電話対応がかなり大変だったが、解消された」「残業時間が減少した」という声があがっています。
また、保育ドキュメンテーションを活用することで、保育の振り返りができ、次の保育計画にもつなげていけるといった「保育の質向上」を実感しているという施設からの反響も増えてきています。

2. 保護者や学生からの期待

保育施設だけではなく、保護者や保育学生の間でも、保育ICTへの需要が高まっています。実際に行ったアンケートでは、約99%が園選びで「連絡アプリ」を重視しており、約91%の保育学生がICTを活用した保育園への就職を希望しています。 実際にICTが導入された施設の保護者満足度も高く、ICTの継続利用を希望する声が多数上がっています。

3. 自治体保育担当課が感じる効果

すでに保育ICTを導入している自治体の保育担当課職員からも、保育ICT導入の効果を実感しているという声が聞かれるようになっています。

【保育ICTを導入している自治体の声】
・システム関連で課に連絡がきたことがないので、保護者の満足度につながっているのではと思う
・保護者アンケートの集計が便利になった
・本部機能により、あえて忙しい現場に連絡を取らなくてもいいケースが増えた
・学童が小中でも同一ICTを導入しているため、保護者から「同じサービスで便利」といった声があがっている
・保護者の満足度も高く、市民サービスの向上につながったと感じる

また、今後、保育DXが進み、フェーズ2(給付・監査のデジタル化)が実現されれば、自治体保育担当課の給付・監査業務は大幅に省力化されると想定されます。こうした変化にともない、運用方法も見直しの時期を迎えています。自治体によっては従来のルールの踏襲が続いている現状や、利用機能およびシステム提供形態(SaaS)になじまないセキュリティ制限などの問題が見られます。

自治体主導での保育ICT導入にあたって

1. 導入時の検討項目

保育ICTを導入する際に検討にあがる項目は、自治体ごと、公立施設ごとの状況に応じて変わりますが、大きくわけて下記の5点の検討に時間が割かれることが多いようです。

➀保育ICTに関する情報収集と導入計画の立案
➁予算の申請と確保
➂必要要件の精査、保育現場との調整
④契約事業者の選定
⑤運用計画の立案と実行

保育ICT導入は、情報収集から運用計画まで多岐にわたる検討事項があり、時間と労力がかかります。特に、要件定義や事業者選定は慎重に進める必要があります。自治体導入実績が豊富な事業者に相談することで、これらのプロセスをスムーズに進めることが可能です。専門的な知識やノウハウを活用し、効率的な導入を実現しましょう。

2. 補助金の活用

保育ICT導入のための財源確保には、補助金を活用するケースが多く見られます。 政府は平成28年度頃から継続的に補助金を交付しており、ICT補助金の活用・実施に関するアンケート(※1)では、保育ICT導入に際して補助金を活用した自治体は84.2%にのぼりました。

補助金は活用することでICT導入の大きな後押しとなりますが、その仕組みや申請が複雑でもあります。令和6年度補正予算に盛り込まれた新しい地方経済・生活環境創生交付金ついて詳しくはこちらの記事で解説していますので、あわせてご覧ください。
【R6年度補正予算】保育ICTシステムの導入に!新しい地方経済・生活環境創生交付金を解説

3. 国の推奨仕様への準拠

デジタル庁は、地域のデジタル化を加速するために「デジタル地方創生サービスカタログ・モデル仕様書」を策定しました。国が推奨するシステムや標準仕様が公表されているため、自治体職員が保育ICT導入検討にかかる負担の軽減に役立ちます。また、自治体間でシステムにばらつきがある現状を解消し、効率的な業務運営を実現するための重要な指針でもあります。
こども家庭庁も、保育DXとして給付・監査を始めとする業務をデジタル化する「保育業務のワンスオンリー」やオンラインで保育園手続き一括化できる「保育ワンストップシステム」の実現を目指しており、これらの実現に向け保育ICTの導入率100%を掲げています。今後、自治体は国の推奨する標準仕様に準拠したシステムを導入することが重要となります。

保育AIの活用を見据えて

近年、保育現場でもAIの活用が進み始めています。保育AIは、業務省力化や保育の質向上に貢献する可能性を秘めており、今後の活用が期待されています。

1. 保育AIの可能性

現場職員へのアンケート調査では、保育現場職員の71.7%が生成AIの利用に不安を感じているものの、61.9%は今後の活用に意欲を示しています。不安の声としては「よくわからない」「活用方法が想像できない」「AIの性能への疑問」などがあげられますが、期待の声としては「業務効率化による保育時間確保」があげられています。
新たな技術である「保育AI」を子どもたちや保育の未来のために活用していくためには、保育現場におけるあるべき姿を常に問いながら、保育者と共にその活用方法を探求し続けることが重要です。

保育AIのあるべき姿についてはこちらをご覧ください。
あるべき姿から考える「保育AI」

保育ICT100%に向けてのまとめ

ICTシステムの導入は、保育現場のDX化を推進し、保育の質向上、保育士の負担軽減、保護者の利便性向上など、多方面にわたる効果をもたらします。
ICTシステムの導入や補助金活用についての不安がある場合は、お気軽にお問い合わせください。

参考資料
保育政策の新たな方向性/こども家庭庁
デジタル地方創生サービスカタログ・モデル仕様書/デジタル庁

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