こども家庭庁から令和6年度補正予算および令和7年度予算案が発表されました。
今回は、これらの新たな政策がどのように保育現場に影響するのか解説します。
令和6年12月にこども家庭庁から「保育政策の新たな方向性」について資料が公開されました。
令和7年度~令和10年度末までの施策の柱となるのは下記の3つです。
①地域のニーズに対応した質の高い保育の確保・充実
②全てのこどもの育ちと子育て家庭を支援する取組の推進
③保育人材の確保・テクノロジーの活用等による業務改善
これまでは待機児童解消のために保育の量を確保することを目指した政策が中心でしたが、少子化や保育施設の整備によって、待機児童は減少しています。
一方で過疎地域では人口の減少、子どもの減少にともない、園児が足りていない保育施設も増えてきています。また、不適切保育の問題や保育者の人材確保などさまざまな面で課題があります。
これらの現状から、保育の量を増やす政策から、保育の質を向上させる政策へ転換されました。
令和5年4月に「こども基本法」が施行され、改めてすべての子どもと子育て世帯への支援が重要であると示されました。
今までは「保育の必要性のある家庭」、両親が働いていて保育ができない家庭への対応が急務とされていましたが、多様なニーズへの対応・取り組みも並行して進められていくことになります。
具体的には「こども誰でも通園制度の推進」があげられます。
質の高い保育を実現し、多様なニーズに応えるためには、何よりも保育士などの保育人材の確保が不可欠です。しかし、保育業界では慢性的な人材不足が続いており、働きやすい環境整備と人材育成が急務となっています。
そこで、保育士の処遇改善や、テクノロジーを活用した業務の省力化など、人材確保と現場の負担軽減を同時に進める施策が推進されています。
処遇改善加算の一本化や人材育成、ICT化の推進などが施策に含まれています。
次の章では、3つの柱についてそれぞれ詳しく解説します。
大きなポイントは保育士の配置基準が約75年ぶりに改定されたことです。
これまでは4・5歳児について「子ども30人に保育士1人」という基準でしたが、令和6年度からは「25人に1人」となりました。この変更に対して現場では、一定の改善がなされたと評価する声があがる一方で、より丁寧な保育を行うためには、さらなる見直しや人材確保が必要という意見も出ています。
さらに、令和7年度以降、1歳児の基準も「子ども6人に保育士1人」から「5人に1人」へと改定が検討されています。ただし、全国的な保育士不足の現状を考慮し、基準自体は維持しつつ、手厚い配置を行っている施設への加算措置を設けることで、段階的な改善を図る方針がとられています。
【関連記事】保育士の配置基準変更点と加算措置についてわかりやすく解説します
人口が減少している地域では、施設の規模縮小が避けられない場合があります。この状況に対応するため、公定価格(自治体が保育園に支払う費用)が施設の実態をより反映した形に見直されます。
公定価格は施設の規模(定員)が大きくなるほど、子どもひとり当たりの単価が低く設定される仕組みです。これまで定員区分は10人刻みだったため、10人に満たない少人数の定員減少では単価が上がらず、特に小規模施設では実態に見合った収入が得られにくい状況でした。
この課題に対応するため、定員60人以下の幼稚園・保育所・認定こども園については、より細かな定員区分へと見直しが行われます。
参考資料
見直し前:令和6年12月27日公布の公定価格表
見直し後:令和7年4月1日公布の公定価格表
例えば定員が40人から35人に減少した場合、見直し前は区分が変わらないため基本分単価(※)も変わりませんでした。見直し後は区分が31人~35人までの区分に変わるため基本分単価は92,840円から100,430円に設定されます。
定員区分を細かく設定することにより、子どもの人数に応じて定員を減少させたときに、従来より少ない減少でも次の区分に移れるようになりました。これにより、高い単価が適用されるタイミングが早まり、小規模園の経営が安定しやすくなると考えられます。
※基本分単価:公定価格の中で、日常的な保育に必要な基本的な費用(人件費や光熱費など)をまかなうために設定された、園児1人当たりの基準単価
定員充足率の低下が顕著な過疎地では、保育施設の多機能化が注目されています。
多機能化とは、保育施設としての機能だけでなく、地域の子育て相談や高齢者支援など、保育施設が複数の役割を担うことで、地域における保育機能の維持や地域全体の活性化を目指しています。
地域の実情に応じた多機能化などの取り組みを推進するため、実際にいくつかの地域でこのような施設を試験的に運営する実証事業が進められています。
令和7年度には、「こども誰でも通園制度」が始まります。これは就労条件に関わらず、すべての子どもが月最大10時間保育園を利用できる仕組みです。令和8年度から全国の自治体での展開が進むように整備が進められています。
この制度を導入する施設には、予約枠などを管理するためのICT機器やインターネット環境、入退室管理用のタブレット端末、キャッシュレス決済に必要な機器などの導入について、その費用の一部が補助されます。
障がいのある子どもや医療的ケアが必要な子どもを受け入れる体制強化も進められています。保育施設では、障害児支援の専門職や看護師が巡回配置されるなど、インクルーシブな保育環境の実現に向けた取り組みが推進されます。
また、病児保育や一時預かりなど多様な保育ニーズに対応できる体制を整えるため、一部単価の引き上げなどの支援も拡充されます。施設としては、これらの取り組みに対応する人材の育成や専門的支援の活用を検討する必要が出てきます。
これまで複雑だった「処遇改善加算」が一本化され、「基礎分」「賃金改善分」「質の向上分」の3つの区分に再編されます。これにより、事務手続きの簡素化が図られ、現場の負担軽減にもつながります。
賃金改善については民間給与の動向を踏まえて調整され、より納得感のある賃金設定がしやすくなると考えられます。
保育士不足が続くなかで、人材の確保と育成を目的としたさまざまな支援が強化されています。
学生への支援に加え、保育補助者として働きながら保育士資格の取得を目指す方に対して、試験費用や学習にかかる経費の一部が補助されます。
また、離職後に再び保育の現場に戻りたいと考える方への支援も拡充されました。再就職のための準備金や、子育て中の保育士に対する保育料の貸付など、復帰しやすい環境づくりが進められます。
登降園管理や保育記録などの事務作業を省力化し、子どもたちと向き合う時間を増やすために、ICTシステムの導入が進められています。
このICTシステム導入に対しても補助制度があります。さらに、午睡中の見守りセンサーやAIカメラなど安全対策設備も同様に補助対象となります。
令和6年度補正予算において新たに創設された「保育ICTラボ事業」では、先進的な施設をモデルケースとし、その活用方法や導入効果をもとに、ICTを活用した保育の取り組みを広げていくことが目指されています。具体的には、ICT機器の導入支援に加え、導入後の効果的な活用について相談できる窓口の設置や、ICTに対応できる職員の育成、さらにノウハウの共有などが行われます。
さらに、令和7年度には、給付・監査業務などをデジタル化するために「保育業務施設管理プラットフォーム」等の政府システムが構築される予定です。令和8年度からの本格稼働では、各保育施設が導入しているICTシステムとの連携が前提となるため、政府方針として令和8年度までに全施設でのICT活用を目指す「保育ICT導入100%」が掲げられています。
政府としてもICTシステムが導入されていることを前提にした仕組み作りを進めているため、ICT化への対応が遅れると監査や給付などの業務に影響が出る可能性があります。
【関連記事】令和8年度までにICT導入率100%へ 保育現場における保育ICT導入と今後の展望
令和7年度予算案では、保育の「量」から「質」へと大きく舵が切られたことが明確になりました。配置基準や処遇の見直し、ICTを活用した業務の省力化など、保育現場の課題に対応するさまざまな取り組みが進められています。
特に、「こども誰でも通園制度」の本格実施や、ICTシステムとの連携を前提とした給付システムの構築など、制度や仕組みも大きく変わりつつあります。
ICTシステムの導入や新しい制度への対応に関して不安やお困りごとがある場合は、どうぞお気軽にご相談ください。
参考資料
令和6年度 全国こども政策主管課長会議 保育政策課
令和7年度保育関係予算案の概要・参考資料
こども家庭庁 予算・決算・税制・特別会計に関する情報開示
こども基本法
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